2014年8月15日金曜日

「十八史略(10)―妲己(だっき)⑥」

武王
 それから二年が経った。紂王の暴虐はますます酷くなった。また妲己のサディズムは際限がなかった。

ある日、紂王の叔父にあたる比干が命をかけて諌めにやってきた。

妲己は、「この方は、聖人でしょう」

「世間では、そういわれているが」

紂王は興味がない風に答えた。

すると、妲己は怖いことを言った。

「あたしは、聖人の内臓には、七つの穴があると聞きましたが、この方はどうなのでしょう」

紂王は、気だるい顔をしながら

「どうだ、調べてみようか。七つの穴があるかどうか」

比干は、絶望して言った。

「どうぞご存分に」

比干は無惨にも解剖された。

妲己は、次に何をするか常に考えていた。

紂王は、今や、妲己が何かを考え出すたびに目をギラギラさせて不気味に笑っていた。

 この比干の事件が伝わってきて、武王と周公は、兵を挙げた。もう100%大丈夫と判断したのである。諸侯を集めた。四万五千の兵が渭水を下り、さらに黄河を下った。迎える殷の兵は、七十万。兵の数は、圧倒的に紂王の方が多かった。紂王自ら牧野に迎え打った。

 ところが、この戦いは鎧袖一触、一瞬で決まった。殷の兵の多くは、戦争で俘虜になった者ばかりで、忠誠心はなく、紂王直属の部下も連日の酒池肉林で戦意のある兵はいなかった。

 紂王は牧野から殷のみやこの朝歌に逃げ帰り、贅を尽くした楼閣に登り、飾れるだけの珠玉をまとい、建物に火を放ち、その火の中に身を投じた。紂王を追って、朝歌に入城した武王は、紂王の死体に三本の矢を射、名剣軽呂で斬りつけ、黄金に輝く鋮(まさかり)で首を切り離した。その首を大白旗の先に突き刺した。
 
 殷の終焉であった。以後、周の時代となった。

 

0 件のコメント: