2014年8月13日水曜日

「十八史略(8)―妲己(だっき)④」

 妲己の不評を確定的にしたのが、「炮烙(ほうらく)の刑」であろう。

銅の柱に油を塗り、これを真っ赤になった炭火の上におき、その上を重罪人に歩かせる刑罰であった。

炭火はかっかと燃えており、火の海になっていた。これに1本の銅の柱をかける。さらに銅柱にはすべりやすいように油が塗ってある。塗り加減がよくないと罪人は一歩も歩けないうちに火の中に落ちてしまう。また、銅柱に火が近すぎても、あまりの熱さに歩けずに火の中に落ちてしまう。

罪人は、無事に油塗りの銅柱をうまく渡れば、無罪放免になるが、失敗して落ちれば焼け死ぬことになる。このため、罪人は必死の形相であった。

妲己は「落ちる瞬間の罪人の顔がなんともいえない。あれを見ないことには、からだがひきしまりませんわ」と紂王に言った。

紂王もまたこれに同意して「わしもじゃ」と興奮して答えた。

さらに妲己は、「あの必死の形相を見たあと、ジューと人間の焼ける音がたまりません。これを聞くとやっと今日の終わりという気がします。炮烙のない一日なんて、考えただけでもぞっとします」と、紂王に言ったという。

 
 「炮烙の刑」については、さすがにいきすぎと感じたか、周の文王が

 「炮烙の刑だけは、お止めください。そのかわりにわたしの所有する洛西の地を献上します」と申し出た。洛西は肥沃な土地で、たっぷりと税金が取れる。このところ、酒池肉林や長夜の飲などで、出費が嵩んでいたので、紂王はこれ幸いと受け取った。

巷では、周の「文王様は情け深い方じゃ」という評判が、千里を奔りました。

 

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