2014年8月12日火曜日

「十八史略(7)―妲己(だっき)③」

 有蘇氏は、些細な不始末をしでかし、お詫びとして妲己を献上して許しを乞うた。紂王は、妲己を得て、狂喜した。

 「これが本物の女だ。これまでの女は、木偶みたいなものであったな。妲己こそは、天がわしのために作りたもうた女性だ。本物の女性だ」と舞い上がった。たしかに、妲己は紂王のために特別につくられた女だった。そうでなければ頭脳明晰な紂王に見抜かれてしまう。妲己は赤ん坊のときから「紂王好みの女」になる特訓を受けて来た。
 妲己が気ままに振舞っているのにその動作ひとつひとつが紂王を有頂天にさせた。紂王は我儘で好き嫌いも激しく、同じことに対しても朝と夜では虫の居所が違ったりしたのだが、妲己は紂王のこの起伏の性格をもすべて理解したようにぴったりと紂王に寄り添うのであった。みごととしか表現のしようがないものだった。

紂王は生まれて始めて一体と感じる女性に出会ったと感じた。自分の望むところは妲己の望むところであった。嫌う対象も同じだった。紂王が宮廷の音楽に飽き始めたころ、まだ紂王が口に出す前に妲己は「もっと心をとろかせる音楽をつくらせましょう」と言った。紂王は、「わしが心の底で考えつき、まだ表に取り出せないでいるときに妲己はそばから汲み取ってくれる」と思った。そして、楽師にいっそう奔放で官能的で淫猥な音楽を作らせた。

 「天下の王は、天下の富をすべて集めなければ」と、妲己が言うと紂王は「たしかに税の集め方が足りない」と思い、税金を重くして、民から富を集めた。妲己が気に入った沙丘の宮殿は、拡張し、園庭には、猛獣や鳥を放し飼いにした。

またあるときは、「楽しみの極地はなにでしょう。楽しむならば、行き着くところまで楽しみたいとわたしは思います。今を存分に楽しみましょう」と妲己が言うと、紂王は「よし、徹底的に快楽を追求しよう」と命令一下、野外パーテイがひらかれた。池の水は、すべて汲み出して、池の底や周囲は、水が洩れないようにした。そこに酒を流し込んだ。焼いた肉は、木の枝に吊るした。紂王は、「このパーテイに来たものは、衣服を着てはならぬ。男は必ず女をひとりさらって、わしのところに連れて来い」と命じた。

 庭にかけられた幕が切って落とされるとそこには宮廷の女性が裸で並んでいた。

「始めよ」

 裸女たちが逃げると、これを廷臣が追った。いたるところで、悲鳴が上がり、歓声があがり、男と女が絡み合った。これが有名な酒池肉林である。

 そのほか、「長夜の飲」というのもやった。徹夜の酒宴ということらしいが、一晩でなく何日もやったらしい。昼間は、戸を閉め切って夜さながらにした。

 政治不在と重税で民の不満は、徐々に高くなっていった。

 

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