2014年8月1日金曜日

「死者の網膜犯人像(4)」

 「係長さん、係の人が主人に注射されていましたが、あれはどういう意味でしょうか」

「あの注射は、ご主人がいわゆる“死”の直前に見られた場面が網膜に残っているのを固めるためにしたのです。死んでも網膜の映像は科学的に再現できるのです。ですから、犯人の場合は、犯人かその関係者の顔が再現で浮かび上がってくるはずです」

  山岸重治の解剖は終わり、それより早く網膜映像の検出結果が庄原係長にもたらされた。みせられたコンピュータ形成の映像は、リスのように可愛い眼をした犬の顔だった。

するとあの愛犬は好江が夫の死体の傍から離れた間に来たのだ。蒲団の裾にいた犬は、その間に主人の枕元に来て坐り、じっとその顔をのぞいていたのだろう。

  翌日の昼すぎ、外房州の海から互いの身体をロープで縛った男女の溺死体が浮かんだ。山岸好江と先妻の子安夫であった。好江と七つ違いである。

「網膜残像」の研究は、続けられているのだろうか。

 

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