2013年2月28日木曜日

松下幸之助は泣いている(13)

  1952年にヨーロッパを代表する大手家電メーカー・フィリップス(オランダ)との合弁で松下電子工業を設立した時のことです。当初、フィリップスは技術指導料として売上の7パーセントを支払うよう要求してきました。

連日の熱のこもった交渉の結果、技術指導料は4.5パーセント、経営指導料3パーセント、つまりフィリップスへの支払いは、差し引き1.5パーセントというラインにまで値引きさせることに成功しました。すべての交渉が終わった調印の日に幸之助氏は現れ、にこやかに書類にサインしたといいます。最初にトップ同士が握手を交わしてしまうと、実際の交渉に当たる担当者は、とにかくまとめることが最大の目標になり、ギリギリの交渉ができなくなってしまいます。良い条件を引き出せなかったら席を立って帰る、それぐらいの気迫で臨むためにはトップは最後まで出ない方がいい。それが幸之助氏の考え方だったのです。

家電復活のための第一の処方箋、それは「人材重視の経営にシフトせよ」ということになると思います。

国内ではともかく海外では、高くても売れるほどのブランド力はなかったというのが実情でしょう。

高級品はあくまでもニッチマーケットでしかありません。

高級品はあくでも「見せ筋」であって、自社の技術力の高さをアピールし、ブランドに憧れを持ってもらうための広告塔的な商品と位置づけなくてはいけません。


部品をできるだけ汎用品でまかない、アジアのEMS(電子機器受託製造サービス)企業を利用して生産する「売れ筋」の普及品に力を入れていかなくては、V時回復は難しいということになります。

技術の流出ですが、生産技術に関して言えば、もう相当なものが流出してしまったと考えるべきでしょう。

次に雇用の空洞化ですが、競争力のない産業が国内に残ることは、長い目で見れば国民の負担になってくることを十分に認識すべきだと思います。低価格を求められる「売れ筋」の普及品は原則的に海外生産に切り替え、メイド・イン・ジャパンであることが付加価値となって高く売れる高級品、職人的な技術を生かせるハイエンド製品を中心とした「見せ筋」の生産のみを国内で行うというように、バランスのとれた棲み分けをしていくことがベストな選択ではないでしょうか。

2013年2月27日水曜日

松下幸之助は泣いている(12)

 デジタル化の進展に伴うもう一つの大きな潮流が家電業界に隕石のようなインパクトを与えているインターネットです。

iPodがヒットしたのは、デジタル音楽プレーヤーとしての使い勝手やデザインがよかったこともあるでしょうが、「iTunesストア」というネット上の店舗から音楽を「いつでも、どこでも」ダウンロードして買うことができるサービスとセットだったことこそが、多くの人々に受け入れられた最大の要因ではないでしょうか。 

2011年度のアップルは売上高1082億㌦に対して、時価総額は5319億㌦。これがサムソンの場合、売り上高はアップルより多い1401億㌦にもかかわらず、時価総額は1531億㌦にとどまっています。パナソニックとソニーの時価総額はそれぞれ165億㌦、140億㌦で一桁違います。これは、世界のマーケットがすでに単品のハードをつくって売るビジネスモデルには限界があるという判断を下したということではないでしょうか。

家電が単品でその性能を競い合う時代が終わり、インターネットとの相乗効果でどんな新しい利便性を提案できるかを問われる時代に突入したのだと言えるでしょう。

日本の家電メーカーがアップルのようになれなかった理由を探していくと、結局は「人材」の問題に帰り着くのだと思います。世界のビジネスモデルがどう変化するのか読めなかったように、インターネットと家電が融合するユビキタス時代の趨勢もやはり読めていません。読める人材がいないのです。

アップルはハードの製造だけでなく、サービスの提供についても水平分業的な発想を取り入れていたのではないでしょうか。

すべて自社内で完結させず、共存共栄していこうという姿勢は幸之助の考え方に近いものだとう言えるのではないでしょうか。

家電業界でいえば、国内に世界の約一割を占める大きい市場があるので、日本でそこそこ大きいシェアを取ると世界でもかなり上位に入ってきます。すると世界が見えたような気になって、自分たちの視野が狭いのに気がつかなくなってしまうのです。

「遊び心」のようなセンスはソニーに限らず、あらゆる家電メーカーにとってより重要になってくると思います。

日本の家電業界が復活に向かうためには、何をすべきなのか、最初にとりあげたいのは「人材」です。

買収や合併後にしっかり活用できる事業や人材を見きわめ、そこだけを買うようなMAのやり方です。アメリカでは「ミート・アンド・ボーン(肉と骨)」という言い方をしますが、要するに肉になり骨になり栄養のある部分を買わなくてはならないという意味でしょう。

 

2013年2月26日火曜日

松下幸之助は泣いている(11)

 1996年、創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、一度解任されたアップルに復帰しますが、当時アップルの製品は全米の大手パソコンショップの店頭からほとんど姿を消していました。小売店が店頭に置きたがらないほど人気が落ちていたからです。

「いくら新製品を開発しても消費者の目に届かなければ意味がない」と考えたジョブズ氏は、販売戦略強化のため、自ら小売り部門を立ちあげました。これが現在のアップルストアなのです。

その後、ジョブズ氏はギャップやターゲットといった大手小売業の幹部を次々に引き抜いて、アップルストアの強化に当たらせました。

「ジーニアスバー」と呼ばれる技術サポートコーナーも設置されました。

アップルストアではスタッフに、商品を売り込むのではなく顧客の問題解決をサポートするのだという理念を教えています。

接客にも独自のメソットがあり、

「一人一人の顧客を温かく迎える」

「顧客の全ニーズを丁寧に聞き出す」

「その日すぐ使える解決方法を提示する」

「顧客が抱える問題や懸念に耳を傾け解決する」

「感謝と再度来店してほしいという気持ちを込めて見送る」

と、その内容は非常に人間的なものです。 

売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永久の客を作るといいます。

アップルストアの全米二位に続いて、デルのダイレクトストアも全米八位の売上をあげる存在です。デルの主力は、あくまでネット上のオンラインストアですが、実際に商品を手に取って見たり、スタッフに直接相談できる「リアル・サイト」の展開もしており、相乗効果での販売拡大が功を奏している形です。

大量販売のためにどうしても必要なディスカウントストアとのつきあいとは別に、ブランドを確立するための直販・直営店という存在が見直される時期がきているように思います。 

家電とはこういうものという常識の範囲内で、テレビであれば画面が美しい方が、デジタルカメならば画素数が多い方が、ビデオレコーダーなら録画時間が長い方がよいのだから売れるはずだ、と考えてきます。

しかし、そういった家電業界の常識とは異なる次元で思いがけない商品提案を行い、2000年代以降に大ヒットを連発している企業があります。それがアップルです。アップルの製品は、技術的には決して画期的な新技術を使っているわけではありません。

iPhone にしてもiPodにしても、部品は汎用品がほどんどで、製造は中国のEMSに委託しています。はっきり日本の家電メーカーにも十分つくれた可能性のある製品なのです。ただ、アップルの製品には日本の家電メーカーが持ちえなかった「常識や既存の知識から解放された純粋な思いつき」がありました。それが多くの人々の心を捉え、世界中で大ヒット商品となったのです。

 

2013年2月25日月曜日

松下幸之助は泣いている(10)

 「見せ筋」「売れ筋」「呼び筋」という商品レンジのうち、ディスカウントストアとの関係が深いのは、「売れ筋」「呼び筋」の二つの商品ゾーンです。「売れ筋」は、大量販売して利益を確保する普及品、「呼び筋」はディスカウントストアの集客につながるような低価格の目玉商品です。これまで日本の家電メーカーは、このどちらでもない「見せ筋」の高級品にばかり重点を置いてきましたが、「売れ筋」と「呼び筋」の商品開発にも力を入れるべきだったと思います。

いちいち商品特性を説明しなくても、お客さんが「これは自分が欲しい商品だ」とすぐわかるような単純なセールスポイントを持たせなくてはいけません。

もう一つ大事なのは価格です。通常の商品は、新製品の時がいちばん高い値段で売れ、次のモデルが出る頃になると徐々に値段が下がってきます。値段を下げても売れなくなると、ディスカウントストアではセール対象品となり、いわば叩き売りになります。こうした商品としてのライフサイクルを最初から最後まで計算して、その中で利益を確保できるような価格設定をしていかなくてはなりません。

10月から12月はショッピングシーズンで、家電をはじめあらゆる商品が、この3か月で半年分を売ると言われるほどですが、その中でも「クリスマスセール」は日本の歳末商戦の数倍の規模で盛り上がります。その開幕を告げるのが、感謝祭(サンクスギビングデー=11月第4木曜日)の翌日の金曜から始まる週末で、特に初日の金曜は小売店が儲かって黒字になることから「ブラック・フライデー」と呼ばれます。


世界の潮目は大量生産・大量販売へと流れているわけですから、大量販売が可能なこのチャンネルを無視することができません。いかにディスカウントストアで売れる商品を開発し、共存共栄していく施策を考えるかが、世界の家電メーカーにとってますます重要になると思います。

一方ディスカウントストアとは対照的に、値引きをほとんどしない「直営店」(ダイレクトストア)で売上を伸ばしている企業もあります。その代表がアップルです。今、このアップルストアは全米の家電売上で、ベストバイに続く第二位となっています。実はこれが「第二の流通の潮目の変化」とでも言えるものなのです。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、世界中にある300店舗以上のアップルストアを訪れるお客さんの数は四半期で6000万人を超えるといいます。これはアメリカのウォルト・ディズニーの四大テーマパークの入場者数よりも多い数字です。その床面積当たりの年間売上高は一平方メートル当たり47408ドルにも達し、ティファニーやコーチといった高級ブランドショップ以上の売上効率を誇っています。さらに家電最大手ベストバイの店舗と比べると約5倍です。

ディスカウントストアには技術的な質問や相談に対応できる販売員がおらず、きめ細かい対応を求める人々がアップルストアで買い物をしています。

これらは家電というよりはむしろIT機器なので、アプリのことやアクセサリーのことなど、つかいこなしたいと思うほどにさまざまな技術的な質問や相談が増えてきます。アップルストアはそういったお客さんに真正面から向き合うことで売上を伸ばしているのです。

本体だけでなくアクセサリーも数百種類がそろいますし、さらにそれらはすべてアップル公認の商品です。それだけに信頼性もあり、価格は多少高くても、アップルストアで買ったこと自体がファッションにもなるわけです。こうした店舗のスタイルはアメリカでは「エレクトロ二クス・ブティック」と呼ばれています。

 

2013年2月24日日曜日

松下幸之助は泣いている(9)


 鴻海精密工業の大型提携をまとめたシャープの町田勝彦相談役は、「事業っちゅうのは、腹をすかしたもん同士が目の色を変えてやらんことには成功せん」と言って、貪欲にビジネスに取り込む鴻海の郭台銘会長という「人物」を信頼したからこそ提携に踏み切ったことを明かしています。

近年の日本企業は、それほど大切な「人」を企業の宝として扱わなくなり、また育成の方針もなんとなくピントがずれたものになっています。そのきっかけは、やはりリストラによる企業風土の変化ではなかったのかと岩谷氏は語っています。

幸之助氏は、「10年以上、同じことをやっていたら今日の会社は落後する」とも語っています。

ある時期から新製品といえば高級路線ばかりということが続きました。「ものづくり大国ニッポン」が自信を持って送り出す商品は、必ず世界でも評価されるはずだという「驕り」があったのではないでしょうか。

日本の家電市場は世界の約10パーセントを占める大きなものです。それだけに、日本国内で成功を収めるとそれなりの規模の売上があがり、利益も出ます。しかし、だからといってそのまま世界に打って出て成功すると考えたら大間違いなのです。そのことを正しく認識し、その上で世界と対等に渡り合える人材を育成していくことこそが、日本家電復活へのもっとも近道ではないかと岩谷氏は言っています。

幸之助氏は、商品づくりの基本的な考え方として、「客のためになるものを売れ」と言いました。
もっとも消費者に近い流通の変化に家電業界はどう対応すべきだったのかを考えてみたいと思います。

現在、日本で家電をもっともたくさん売っているのは、ヤマダ電機やビックカメラ、エディオン、ヨドバシカメラ、ケーズデンキといった家電販売店です。しかし、世界的に見ると家電流行の主役は、前述のようにウォルマート(アメリカ)、コストコ(アメリカ)、カルフール(フランス)、テスコ(イギリス)、メトロ(ドイツ)などの「大型ディスカウントストア」にはっきりと移っています。

アメリカの家電専門店で唯一上位に入っているのはベストバイですが、実はここも主力商品は自社のプライベートブランドです。その意味ではディスカウントストアの一種と言ってもいい存在です。

こうしたディスカウントストアが家電小売りの主役に浮上してきた最大の理由は、やはり家電のコモディティー化でしょう。ブランドよりも価格が勝負となります。ディスカウントストアは丁寧な接客しない分だけ、店側の取り分(マージン)が低いのが一般的なので、薄利多売の中で利益を確保しなくてはならないメーカーにとっては、まさに絶好のパートナーということになります。

国内だけなら力のある家電量販店のルートで十分な数量を販売できますが、日本家電が再び世界で存在感を見せようと思えば、ディスカウントストアにどうように売り込むか、彼らを味方にするどんな手を打てるかが勝敗の分かれ目になってくるのではないでしょうか。

 

2013年2月23日土曜日

松下幸之助は泣いている(8)


 在庫はたまりたまって経営を圧迫しています。幸之助氏は生産調整を行うため、工場の操業時間を半分にしました。当然、就業時間も半分になります。今で言うところのワークシエアリングですが、それにもかかわらず給料は全額を支給し続けました。

すると、会社の経営が苦しいことがわかっている社員たちもふるいたちました。工場を動かさない空いた時間を利用して、工員たちも営業と一緒になって得意先を回り、製品を売り歩きました。約2ヶ月で余剰在庫はなくなり、数ヶ月後には注文も戻ってきました。社員を温存していた松下電器はそれらの注文にすばやく応えることができ、業績は急回復していったといいます。

戦後にGHQ(連合国軍総司令部)から戦争に協力した疑いをかけられ、企業規模を縮小するようにという指令が出た時には、幸之助氏にも打つ手がありませんした。説明会の壇上で幸之助氏は涙をながしながら事情を説明し、従業員たちに許しを請うたと言われます。それほどに社員、すなわち人材を宝だと考えていたわけです。 

日本の経営者の中にも、「人件費は変動費だ」と言ってはばからない人が出てきています。売上が伸びている時には雇用を増やす、しかし売上が落ちてきたらリストラして人件費を減らす

つまり人材を「会社経営の安全弁」と考える経営です。そのために、いざという時にリストラしにくい正社員ではなく契約社員やパートなど、いわゆる非正規雇用従業員の割合を増やす会社が実際に多くなりました。

リストラをすれば、たしかに人権費は削減できます。しかし、同時に貴重な販売ルートを失う危険性もはらんでいます。エンジニアが流出した場合は、技術そのものや特許は会社に残りますが、営業の場合は直接販売力の低下につながります。特に海外ではそうなのです。

最後には法務と財務の担当者のリードによって具体的なリストラが始まっていました。

優秀なマネジメント層の人材で、ライバルであるサムソンやLG、ヒューレット・パッカードなどに移籍した人もいます。

幸之助氏は「商品を売る前にまず自分を売りなさい」と言いました。最終的にはビジネスは「人」だということなのです。

2013年2月22日金曜日

松下幸之助は泣いている(7)

 「立派な歴史伝統を持つ会社でも人を得なければ徐々に衰微する」と幸之助氏は人材の大切さを説いていました。

企業の針路を定め、売れる商品を開発し販売するのは、経営者や技術者、営業といった「人材」です。現在、アップルやサムソン、鴻海などの海外企業が最高益を計上し、対するパナソニック、シャープ、ソニーなどの日本企業が歴史的な大幅赤字という結果を見る限り、わが日本企業は人材の面でも後れをとっていたのだと認めないわけにはいかないと岩谷氏は言います。

日本全体を見ても、グローバルな見地に立てる経営者が不足したのではないでしょうか。

日本企業と海外企業の人材の質の違いは、学生時代にすでに始まっているのかもしれないと感じることもあります。

サムソンは「サムソン横浜研究所」を1992年に開設しています。

サムソンでは「日本で研究開発の仕事ができる」拠点として横浜研究所をつくりました。現在、サムソンは世界でも屈指の半導体メーカーとなっていますが、その飛躍を支えたのが、日本のエンジニアがもたらした当時の最新技術だったと言われています。

日本の大手家電メーカーの場合、リストラは一定の年齢で線を引いて行うか、希望退職者を募るかです。そうすると、どうしても仕事のできる優秀な人も対象になってしまいます。リストラが行われることがわかると、「辞めさせられる前に自分から辞めよう」という人も出てきます。退職した後に転職活動をするよりも、在職中に自分から売り込みに行った方が有利に転職できるからです。

いざという時にすばやく行動に移せるのは、えてして優秀な人です。

そういう優秀な人材は、技術的ノウハウや大きな顧客ルートを握っているだけではなく、目に見えない企業文化や企業理念もしっかりと身につけています。いわば付加価値のついた人材です。こうした人材が去れば、たしかに企業の固定費は圧縮されますが、それがそのままライバル企業に移って相手を強くするのに役立ってしまうというリスクもあるのです。

ちょうど将棋で駒を捨てると、それが今度は相手の持ち駒になって自陣に襲いかかってくるようなものです。まさにリストラは「諸刃の剣」と言えるでしょう。

アメリカでリストラを行う時には、訴訟に発展しないように、人種・性別・年齢など、さまざまな面でマイノリティーや弱者の要素のある人材を対象からはずさなくてはなりません。そうすると結果的に「若い白人の男性」がリストラされることになります。あるいは、事業所や事業部を閉鎖という形で全員解雇するかです。

リストラをやって、良い人材だけを残すことは至難の業です。むしろ、予想した以上に優秀な人材が流出していく、それがリストラなのだということを、企業はもう一度肝に銘じる必要があるということを強調したいと思います。

幸之助氏は自分が経営の先頭に立っていた時には絶対にリストラをしませんでした。1929(昭和4)年の世界大恐慌では、日本もアメリカ発の金融恐慌に巻き込まれ、松下電器も創業以来の大苦境に陥りました。

この時でも幸之助氏は、「うろたえては、かえって針路を誤る。そして、沈めなくてよい船でも、沈めてしまう結果になりかねない。(中略)嵐の時ほど、協力が尊ばれるときはない」といってリストラをいましめました。

他の多くの日本企業が従業員の整理解雇を進めていく中、幸之助氏の松下電器は雇用には一切手をつけませんでした。

2013年2月21日木曜日

松下幸之助は泣いている(6)

人材の流失


EMSには、単純生産だけ請け負うOEM(Original Equipment Manufacturer)型と、開発や設計なども含めた、より幅広い受託サービスを行うODM(Original Design Manufacturer)型があります。

最大手の鴻海は、その従業員数が100万人を超えています。2007年度が55万人、2010年度が80万人ですから、その成長スピードにはスサマジイものがあります。売上はざっと10兆円。メーカーからEMSに支払われる加工費は意外に安く、たとえばアップルのiPhoneの場合、一台を組み立てておよそ10ドル(800)と言われています。それで10兆円を稼ぐとしたら、単純計算では年間125億台を生産していることになります。日本企業の場合は、巨艦と言われるシャープ堺工場の生産能力が、40型液晶パネルに換算して年間約1560万台分と言われます。 

EMSをはじめとするアジアの企業では、日本人の経験豊富なエンジニアやマネジメントクラスの人材も活躍しています。わずか10年ほどの間に世界でもトップレベルの生産技術をみにつけた背景には、やはり高度な知識やノウハウの移転があったのだろうということは容易に想像できます。

実は、こうしたアジア企業で働く日本人の中には、あいつぐリストラで職場を失った人がかなり含まれています。 

「最近、私の会社にも、日本の工場を辞めた優秀なエンジニアがどんどん来てくれるようになりました。とても苦労していましたが、今では手をこうしていれば自然に落ちてくるぐらい簡単に採用できるんですよ」と岩谷氏のところにも言ってくるそうです。

日本の大手メーカーで働いていたベテラン社員の年収となると、現地の感覚では破格の待遇です。さらに、1ヶ月に1週間は日本に帰って休めるように休暇と航空券も支給しているそうです。 

日本人はまだ働ける人を60歳になったからといって辞めさせるのかと不思議がっていました。バブル後の経済の冷え込みで事業再編を迫られた企業から流出した人材の採用に特に熱心だったのは韓国のサムソンだったと言われています。

90年代から2000年代にかけてのサムソンの急成長はよく知られるところですが、その起爆剤となったのは日本からの技術者だったのです。

この人材の流出問題こそ、日本の家電メーカーが不振に陥った最大の要因であることは間違いないでしょう。「ものづくり大国」の秘伝のノウハウをライバルである海外企業に流出させないために垂直統合による国内主義・自前主義にこだわったにもかかわらず、結果的にそのこだわりが業積不振を招き、さらなるリストラと人材流出、それにともなう技術やノウハウの流出を招くという悪循環に陥っていると岩谷氏は言います。

幸之助氏は

「万物がつながっている社会で、ある特定のものだけが栄えることは、一時的にはあるかもしれないが、決して長続きはしない。すべてが共に栄える、共存共栄するということでなければ、真の発展、繁栄はありえない」と言っています。

 

2013年2月20日水曜日

松下幸之助は泣いている(5)

 日本以外の家電売り場に行って、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機などについては、日本勢を見つけること自体が難しいでしょう。この面でも大きくシェアを伸ばしているのはアジア企業です。

日本製の家電は売り場の端っこに追いやられていきました。デジタル技術の進歩にともない、かってない大量生産・大量販売こそが市場での勝敗を分ける時代となった2000年代。その環境変化に対応できた企業は大きく業績を伸ばし、対応が遅れた企業は苦戦を強いられています。その答えの一つが、「垂直統合型経営」から「水平分業型経営」への大転換でした。

垂直統合と水平分業には、それぞれの良さがあるのですが、現代のデジタル家電業界に限っていえば、スピード感という面で水平分業に分があるように感じられます。

水平分業を効率的に使えば、開発期間なしで商品開発が可能になります。固定費が少なくてすみますので、フットワークの軽い経営が可能になり、その分だけ商品価格を抑えることもできます。

IT業界のヒューレット・パッカードやデルなども、この水平分業をうまく活用しています。パソコンなどのIT機器とデジタル家電は、半導体や液晶パネルなど、使う部品もかなり共通しており、二つの業界の間には境界線がほとんどなくなりつつあります。

日本の家電業界はこの水平分業化の流れに完全に乗り遅れました。

著者もシャープの堺工場を見たことがありますが、その堂々たる威容がかつての戦艦大和に重なって仕方ありませんでした。太平洋戦争当時、すでに航空機による戦いが勝敗を決する時代になっていたにもかかわらず、日本海軍は大艦巨砲主義にこだわりました。その背景には日露戦争での日本海海戦の勝利があり、「最後は戦艦を中心とした艦隊決戦で勝敗が決まる」という思想を捨て切れなかったわけです。

過去の成功体験を捨てきれるかどうかはビジネスの世界でもよく指摘されるとおりです。

2013年2月19日火曜日

松下幸之助は泣いている(4)

幸之助氏の「水道哲学」

ある夏の暑い日のこと。幸之助氏が道を歩いていると、車夫が他人の家の水道から勝手に水を飲んでいました。水道代はその家の人が払っているのですから、水道水は決してただではありません。しかし、勝手に飲むというマナーはともかくとして、ただではない水道水を飲んだこと自体をその家の人もまわりの人もとがめません。

これは水道水が非常に安いものだからだと気づきます。ならば水だけでなく、あらゆる商品が水のように安い価格で普及すれば、人々の暮らしは豊かになるのではないか。そして商品を安くするには大量生産がいちばんだ

そこで、幸之助氏は、

「産業人の使命は貧乏の克服である。そのためには物資の生産に次ぐ生産をもって、富を増大しなければならない」

「産業人の使命も、水道の水のごとく、貴重なる生活物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価格で提供することである。それによって人生に幸福をもたらし、この世に楽土を建設することができるのである」と、宣言しました。

デジタル化は、実はもう一つの大きな衝撃ももたらしています。それは「インターネット」です。

これからのデジタル家電は単体でどんなに良い性能を持っていても、インターネットやコンピュータ、スマートフォンなどとの連動ができなければ売れない時代がくるかもしれません。

高品質の商品をつくろうという考え方自体は間違ってはいません。日本の家電メーカーの考える「高品質」が、いつのまにか「世界の市場が求める価値」と少しずつズレてしまっていたのが大きな問題でした。そこに危機の芽があるということとに、経営陣も営業も商品開発担当者もエンジニアたちも気づくのが遅れました。

世界の潮流を正しく読める「人材」が決定的に不足していたのです。いつのまにか日本は家電業界の「ガラパゴス島」になっていました。

2013年2月18日月曜日

松下幸之助は泣いている(3)

 次には、大量販売ができる大手ディスカウントストアと組んで売ることも重要になってきます。海外では、総合ディスカウントストアが家電の売上でも主力になっています。

店の取り分(マージン)も低く抑えることができ、価格競争で優位に立ちたいメーカーにとっては、商品を大量に引き受けてもらえることともあわせて、ぜひ強化したい販売チャンネルということになります。

このように部品を大量に仕入れて、労働力の安い国で大量生産し、世界中のディスカウントストアで大量販売するという流れが定着してくると、「デジタル家電のコモディティー化」という現象が起こります。

コモディティーというのは、あまり特徴や個性のない「日用品、汎用品」といった意味で使われることが多い言葉です。「パラダイムシフト」と言ってもいいほどの価値の転換をリードした製品の例をもう一つあげるとすれば、それはアップルの飛躍のきっかけとなったiPodでしょう。

初期のiPodは、音楽データを記録するのにマイクロハードディスクドライブを使っていました。ドライブには予期せぬ衝撃や振動が加わります。当時のマイクロハードディスクドライブはまだそれほど信頼性が高くなかったので、アップル以外のメーカーはこのタイプの製品を大々的に市場に投入するに躊躇しました。ドライブや故障修理の対応が大変だと考えたからです。しかし、アップルは「壊れたら買い替えすればいい」あるいは「返品交換すればいい」という発想の転換でiPodを大ヒットさせました。

日本の家電製品の品質の良さには「故障しにくい」という要素も含まれていましたので、デジタル家電のコモディティー化はその面での強みもあまり意味のないものにしてしまいました。

日本製デジタル家電も大量生産して安く供給できれば、性能では決して負けていないのですから、いい勝負になったはずです。しかし、日本のメーカーは国内生産にこだわり、労働力の圧倒的に安い中国で完全生産している海外のライバル企業と比べると、かなりのコスト差が生まれてしまいました。

2013年2月17日日曜日

松下幸之助は泣いている(2)

 このデジタル化の急速な進展が、日本の家電メーカーにとっては結果的に逆風になりました。部品の集約による小型化や軽量化、組み立て工程の簡素化などは日本メーカーにも恩恵をもたらしましたが、同時にチップを貼り付けさえすれば誰でもそこそこの性能の製品をつくれるようになったことで、「高品質な日本製品」というアドバンテージが際立たなくなったわけです。

70年代までアメリカを代表する家電メーカーだったRCA、ジーナス、マグナボックス、GE、モトローラ、シルバニアなどはすべてこれらの事業から撤退していきました。まさに日本の家電の圧勝だったわけです。しかし、デジタル時代の到来によって簡単に高品質・高性能が実現できるようになると、その強みは日本だけのものではなくなってしまいました。

性能の差があまりないとなると市場での優劣は価格で決まります。

安全だと信頼できる有名メーカーの車種を選ぶ傾向が強いと言われます。しかし、家電の場合は安くて性能が同じなら、たとえ新興メーカーの製品でも買うという消費者が増えます。

実際は、家電製品ほど、信頼性が要求される商品はありません。冷蔵庫、故障すれば、中の食品は腐ってしまいます。炊飯器も故障すれば食べられません。洗濯機も同様です。特に日本人は、そのことが頭にあるので、日本製以外は、買わない傾向にあります。中国でも、上流の人は、その傾向があります。

そういう神話はさておき、勝つために製品の価格を下げるにはどうしたらいいのでしょうか。まずは部品の仕入れ価格を下げることが基本です。汎用品を調達すれば安いのですが、それをさらに一括大量購入するともっと安くなります。つまり部品を大量に仕入れて大量に生産することこそが価格競争を勝ち抜くためのカギとなります。

次に重要なのが組み立てに必要な労働力のコスト、つまり人件費を下げることです。一般的には製造を労働力の安い国や地域に移転させます。今、中国から、ベトナム、ミャンマーなどに移りつつあります。

2013年2月16日土曜日

松下幸之助は泣いている(1)

 技術では韓国、台湾に、価格では中国に敗北した日本の家電業界。もはや日本の「ものづくり」に未来はないのか。「松下幸之助の教えに学べば十分復活できる」という表文に惹かれて読みました。著者は、岩谷英昭氏で松下電器産業に長く勤められた方です。

1934年9月21日に四国、近畿地方を襲った「室戸台風」で松下電器も大きな被害を受けました。このときに幸之助氏が言ったのが、「こけたら立ちなはれ」で、立ち直ったというわけです。その時の危機と比べれば、越えられない苦難ではないということでしょう。

 今回の日本の現況は、2000年以降に顕著になったデジタル化によってもたらされた環境変化に対応する戦略、戦術を立てられる人材が、相手方にはあり、日本企業にはいなかったと指摘しています。日本の家電メーカーは度重なるリストラによって、経験豊富な人材を数多く海外に流出させてきました。人材を軽視した傾向があります。今回もソニー、松下、シャープに限らず、多くの人に退職を迫りました。これまでも、このひとたちが大人しく詩歌や俳句などで余生を送ってくれていればよかったのでしょうが、まだまだ体力はあるし、会社に残った人よりも能力はあると自負しているひとは、海外企業の招聘に喜んで移りました。しかみ、日本での勤務条件よりもはるかにいい条件です。このひとたちの努力で、韓国、台湾、中国の企業は、早いスペードで日本をキャッチアップすべく成長しました。これに驚異的な円高です。爪に灯をともして来た企業も撤退の止むなきに至っています。

松下は何をつくっている会社なのかと質問された幸之助氏は、「松下は人をつくる会社です。あわせて電気製品もつくっています」と答えています。製品をつくるのは人である。だから優れた人材を育てれば優れた製品をつくることができるというのが、幸之助氏の基本理念です。ところが、現在の経営者は、まったく違った経営理念で動いていることは、自明の理です。

長引く円高の影響、2011年特有の現象としては、日本国内で地デジ移行の特需が終わり、東日本大震災やタイの洪水などの天災にも見舞われました。

 幸之助氏は、こういう問題に突き当たっときには、「とにかく、考えてみることである。工夫してみることである。そして、やってみることである。失敗すればやり直せばいい」と、とにかく考え抜いて、工夫して、対策を立てていけば、道は開けると説きました。

また、幸之助氏は、「よく人の意見を聞く、これは経営者の第一条件です」とも言っています。問題に正しく対処するためには、まずさまざまな情報を知っておかなくてはならない。第一に「デジタル化」という大きな環境変化について考えていきます。

デジタル技術の特性として、同じ部品を使っていれば、製品の性能はまったく変わらないということがあります。

この手法で成功した代表選手を一社紹介するならば、アメリカのカリフォルニア州に本社を置く「ビジオ(VIZIO)」という会社でしょう。ビジオは、必要な部品を全面的に提携先の台湾メーカーから購入しているほか、商品ラインナップを売れ筋である30型、40型、50型の薄型テレビに絞っていること、自社工場を持たず,製造はすべてEMS (電子機器受託製造サービス)を活用していること、さらにアメリカでの販売チャンネルをマージンの低い倉庫型ディスカウントストアだけにしたことなどがあります。どれも日本メーカーでも簡単に出来そうですが、なぜかできません。

2013年2月15日金曜日

胡派の巻き返し

 中国の胡錦濤国家主席の側近である李源潮政治局員について、今年35日開幕の全国人民代表大会(全人大=国会)で国家副主席に選出する方向で最終調整が進んでいることが分かりました。

胡派の別の有力者である王洋政治局員も全人代で副首相に主任する見通しです。11月の共産党大会に伴う党内人事で他派閥に押され気味だった胡派は政治人事で2つの重要ポストを獲得し、巻き返す勢いだといいます。

李氏は古くから胡氏の部下で、秋まで党の幹事長にあたる中央組織部長を約5年間担当していましたが、11月の党人事では、政治局常務委員ら7人に選ばれませんでした。

習近平総書記は当初、李氏を閑職の全国政治協商会副主席に据える意向でしたが、胡氏が「李氏はそれなりに処遇したい」と強く求めたためにこの人事になったようです。

このため習氏は現在、自ら兼務する国家副主席のポスト引き渡しに同意したとされます。
 ただ、江氏らは党内序列5位の劉雲山政治局常務委員を国家副主席に就任させたい意向を持っており、まだ予断は許されません。

胡派の有力者で広東省書記だった王洋氏については、副首相への就任が決まったようです。


2013年2月14日木曜日

自民の「何事モ学バズ」



 産経新聞の「正論」で、佐々淳行氏は、「ナポレオンがワーテルローの戦いに敗れた後、ブルポン王朝が復活し、ルイ18世が既位、亡命貴族たちが戻ってきたとき、彼らの狂喜乱舞を冷たく批判したタレイランの言葉に「何事モ学バズ、何事モ忘レズ」という名文句があると言います。

「自民党の政権復帰はそうであってほしくない。景気対策として公共事業拡大、金融緩和などが行われようが、田中角栄時代のように金権政治に戻らないでほしい」と、皆が心配していることを書いています。

この平成維新とも呼ぶべき大政権交代を巻き起こした老・壮・青の三傑がいるといい、それは、石原慎太郎(80)、安部晋三(58)、橋下徹(43)3氏であるといいます。

さらに、三国志の「桃園の義盟」を想起させると持ち上げています。

平成の桃園の義盟では、さしずめ岸信介の孫で安部晋太郎の息子の晋三氏が劉備玄徳であり、橋下義経を助ける弁護を自任している石原氏が関羽、恐れを知らぬ橋下氏が張飛であろうとなぞっています。

3人には、小異を捨て大同につき、救国の「桃園の義盟」を早急に催し、憲法改正、集団的自衛権行使の容認、国防予算と海防予算、領域警備法、武器使用法、国家安全基本法など国家危機管理にかかわる改革を、デフレ脱却、金融緩和などと同じ優先順位で進め、安部氏の悲願、「戦後レジームからの脱却」を成し遂げてもらいたい。「安部玄徳」に必要なのは、諸葛孔明のごとき、直言諫争の軍師たちであると述べていますが、出てくるのは、竹中軍師でないことをのぞみます。

 

2013年2月13日水曜日

ビジョンを決め、実行する胆力

 産経新聞の「The リーダー番外編」で、リーダーについて、稲盛和夫氏は、「日本は『頭が良くて能力が高いリーダーを選びがちだ。日本では何でも試験があり、高級官僚になるにも難しい試験をパスしなければならない』。
 
「能力や知識だけではトップになれないということか」という質問に対して、稲盛氏は「ビジョンを決め、実行する胆力がいる。知識だけでは、何の役にも立たない。知識を見識に高め、強い信念を持つ、己を捨てて実行できる人でないと。最も戒めなければならないのが慢心だ。戦後史や経済界をみても、没落は慢心が原因なのは明らかだ」

  強いリーダーの輩出できる環境についても、「日本は戦後、力強いリーダーが壮大な夢と信念を持って引っ張り、素晴らしい国になった。だが、バブル崩壊後、大きなビジョンを掲げることが危険しされてきた。近年は優秀な利発なリーダーたちが安全運転しており、それが発展を防げた要因だろう」と述べています。

さらに、「リーダーというのは逆境の中から生まれる。現代はあまりに平穏で、真のリーダーが生まれない」

戦後のリーダーとして思い浮かぶのは、という質問に対して、稲盛氏は、「ホンダ創業者の本田宗一郎氏や出光興産創業者の出光佐三氏。私利私欲にまみれない男気のある人たちで、どんなことがあってもへこたれずに邁進する。それだけのことができれば、誰でもリーダーになれる」と語っています。

 こういうリーダーが、もうすこし多く、とくに経団連企業に育ってほしいものです。

 

2013年2月12日火曜日

未富先老の国、中国

  生産労働人口層が60歳以上の高齢者を養う比率は2010年段階で5人に1人だが、20年に3人で1人、30年に2.5人で1人を養う必要に迫られる。だが、すでに中国の社会保障制度は機能不全に陥っていると、産経新聞の「新帝国時代」に書いています。

中国の1人当たりの国民所得は先進国よりまだまだ低い水準にあります。

中国社会科学院で人口労働経済研究所長を務める蔡昉氏は、中国紙への投稿で「日米欧など先進国が経済発展の上で高齢化社会を迎えたのに対し、途上国の中国は大衆に富が行き渡る前に老いてしまう世界初の『未富先老』の国と嘆いていました。

中国にとって少子高齢化は格差拡大を加速させ、国家の統一性をも揺るがすものなのです。

「中国が抱える問題は、かつて日本が経験したことでもあります。われわれができることは、経済活動を通じて中国を軟着陸させていくことだと、関西経済同友会の大林剛郎代表幹事はこう提言しています。

 

2013年2月11日月曜日

シェールガスの戦略的意味


米国が2020年までに世界最大の産油国になるとの国際エネルギー機関(IEA)の予測です。

IEAの「世界エネルギー展望」は、米国が20年までに天然ガスの純輸出国、35年までにはエネルギー完全自給国になるとも見通しています。地中深いシェール(頁岩)層から採掘できるようになったシェールガス・オイルさまさまであると、産経新聞の1221日の「風を読む」は、書いています。

エネルギーが安価になって、化学、鉄鋼、アルミ、ガラスなどを中心に米製造業は競争力を取り戻し、日本もアジアだけを気にするわけにはいかなくなります。

エネルギー自給は、歴代米大統領の悲願でした。ブッシュ前大統領は06年の一般教書演説で、「米国は石油中毒だ」とし、不安定な中東産油への依存を過去のものに、と訴えました。

国際テロ組織アルカーイダの当時の指導者、故ビンラーディン容疑者は、サウジアラビアが奉じるイスラム教ワッハーブ派の鬼っこで、過激派の温床、パキスタンのイスラム神学校にはサウジ資金が流れています。大産油ゆえに米国が庇護する「親米サウジ」の裏面に、テロと戦うブッシュ政権は苛立っていました。

米国が「油」で用済みになった中東への関与と海上交通路から手を引き、中東産油頼みを強める中国が「油送ルート」の確保に乗り出せば、まさに悪夢となります。

安部晋三政権には卑近なところで、「シェール革命」もにらんで、取り合えず原発の再稼働を、と要望しておこうと書いています。

 

2013年2月10日日曜日

首長の国会議員兼職

  橋下徹大阪市長は1228日の定例記者会見で、衆院選期間中にほぼ登庁せず「公務軽視」と批判されたことについて、「選挙で市政の行く末が変わる。市長公務よりも選挙は重要」と反論しました。

橋下氏は、これまで市長公務と区別して「政務」と称してきた日本維新の会の代表代行としての活動を「政党公務」と定義しています。「民主主義では選挙により権力機構が作られ、その在り方で大阪市政の方向性が右に行くか、左に行くか大きく変わる」述べ、政党公務は行政を進める上で必要不可欠な活動であるとの認識を示しました。

橋下氏は1227日に開かれた関西広域連合の会合で首長と参院議員との兼職禁止規定撤廃への反対意見が出たことにも触れ「改革を実現するには(議員として)国会に乗り込むしかない。
広域連合はダメですね」と批判しました。


日本未来の党代表を兼務する嘉田由紀子滋賀県知事は、1220日、県議会本会議の一般質問で「県民や県議会からの意見を踏まえ、今後のことは改めて熟慮したい」と述べ、いずれかを辞任することも選択肢に含めて検討する考えを示した。(しかし、結局は、党代表を辞職し、滋賀県知事に専念することにしました)

これまでは「両方の職責を全うしたい」と兼務に強い意欲を示していました。

  首長と参院議員の兼職について「地方の声をより国政に反映できる上、参院の質も仕事の仕方も劇的に改善される。議員報酬削減への財政効果も高い」とメリットを列挙しました。

橋下氏は、法改正が実現すれば、幹事長の松井一郎大阪府知事とともに参院選に出る考えを示しました。これに同調し、中央集権打破を揚げる日本未来の党代表の嘉田由紀子滋賀県知事も「(改正法案が提出されれば)共同行動をとることは十分にある)」としていました。

矢田立郎神戸市長は「首長の仕事はそんなに軽いものでない。市民や県民の負託を受けているトップが国政に出るなら、職を辞してからにすべきだ」と強く反対しています。門川大作京都市長も「24時間365日、市民の命と暮らしを守る市長の仕事はとても国政と兼ねられない」と語っています。

駒沢大学の大山礼子教授は、地方の声を届ける兼職のメリットを認めながらも、「仕事が中途半端になる上、権力が1人に集中してしまうなどデメリットの方がはるかに大きい」と指摘しました。

海外ではフランスや、ドイツ、スペイン、ベルギーなどで兼職が認められており、中でもフランスでは浸透しています。

 これに対して、一橋大の只野雅人教授によると、同国の国会は、地方議会との日程調整がしやすいように原則週3日間で曜日が固定され、採決での代理投票も容認している。一方、副市長の権限も強化されている。20057月時点で、国会議員計908人のうち、兼職議員は8割以上の750人に上っている。

歴史的背景や、兼職を可能にする仕組みが日本とフランスでは異なっており、法制度だけ切り取って導入するのは無理があるのでなはいかと指摘しています。

2013年2月9日土曜日

原発の断層調査(2)


原子力規制委は、原発の再稼働を難しくしたり廃炉に追い込もうとしたりする意図があるのではないだろうかと「主張」は書いています。

破砕帯の現地調査と評価は、関西電力の大飯原子力発電所から始まりましたが、日本原子力発電の敦賀原子力発電所(福井県)や東北電力の東通原子力発電所(青森県)についての評価会合では、電力会社側の説明に十分耳を傾けようとする誠意や真摯さが感じられません。

敦賀原発に対しては、短期間の審議で活断層との断を下し、東通原発では、活断層の可能性を完全に否定し切れていないという論理で電力会社の主張を退けました。

あまりに強引で、独断的にすぎないか。これでは、調査団に「原発潰し」の目的があるようにも見えてしまいます。

規制委は以前に原発の地質調査に関った研究者をメンバーに加えていないが、参加してもらってはどうか。より深い議論ができるはずだと「主張」は主張しています。

福島県第1原子力発電所の事故調査でも民間事故調が活動しました。破砕帯の評価に関しても多様な視点が歓迎されてしかるべきです。

規制委の調査団が、よりどころの一つとしている感がある変動地形学は航空写真や地表の形から断層などの存在を読み取る学問です。まだ、歴史が浅く、実績も少ないように思いますが、規制委は、これに固辞しています。

調査用の溝を掘って地層の質や破砕帯そのものを扱う地質学とは、おのずと精密度を異にすします。

民間の調査団と規制委調査団がそれぞれの見解をもとに、活断層がどうかを議論すれば、国民の理解も深まるはずです。そうした健全な展開が大切であると思います。

規制委には独立性が保証されているだけに暴走しかねません。一方的に電力会社の説明を退ける姿勢に、その兆候が表れ始めているのでないかとも「主張」は述べています。

不思議なのは、東北大震災以来も規模は小さくなりますが、次々に地震が起こっています。しかるにこれらの活断層と呼ばれるものが事実動いたのでしょうか。

動いたことで、知られるのは阪神淡路大震災の野島断層ですが、これ以外には知りません。まだまだ、活断層というには、研究が足りないのではと思います。

 

 

2013年2月8日金曜日

原発の断層調査(1)


東北電力東通原子力発電所(青森県)の敷地内を走る破砕帯を活断層だとする見解が、原子力規制委員会の専門家調査団によって示されました。


東北電力は、これらの破砕帯に活動性はなく、活断層ではないとみなしてきただけに、両者の認識の隔たりは大きいと、昨年1223日の産経新聞の「主張」が書いています。

 
本来なら1220日の第一回評価会合に東北電力を参加させて議論を交わすべきでした。しかし、それをすることなく、活断層であるとの結果をまとめた上で、東北電力の反論を聞くというのは公平感に欠ける印象があります。


法律で高い独立性が保証されている規制委には、不断の自省が求められるはずです。
  先に行われた日本原子力発電の敦賀原子力発電所での破砕帯調査も、1回限りの審議で活断層との断下した前例があります。規制委が加わる前には、学者が喧々諤々やっていたように思いますが、規制委はそういう討議をすることもなく、活断層とみなしました。


電力会社は、原発の敷地の地層に関して多くの調査データを保有しています。規制委にはそれを十分に検討し、活用してほしいと「主張」も書いています。


そもそも、規制委設置の目的は原子力発電の安全性向上に置かれていたはずです。「原子力利用における安全の確保」は、規制委の任務としても規定されています。


原発敷地内の破砕帯調査は、安全確保の手段の一つに位置づけられるもののはずです。しかし、最近の規制委の活動からは、調査した破砕帯を活断層と即断することがその目的と化しているかのごとき印象を受けてしまいます。