2013年8月9日金曜日

老化は治せる(10)

 前立腺を「Prostate gland」と言いますが、「前立腺から出てくる物質」という意味でプロスタグランジンと名づけられたのです。発見から数十年経った20世紀後半になって、前立腺や精液にしかないと思われていたプロスタグランジンが、人体のほとんどの組織に存在することが確認されました。   プロスタグランジンは炎症の起きた組織で急増することもわかりました。つまり、この物質は炎症と密接な関係があるに違いないと考えられたのです。
 この関係を明らかにしたイギリスの薬理学者ジョン・ベインは、スウェーデンのベンクト・サムエルソンやスネ・カール・ベリストロームとともに、1982年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

炎症が起きている場所で、なぜプロスタグランジンが大量に生成されているのか。
アスピリンが痛みや炎症に効くのは、プロスタグランジンの生成を抑える効力があったからなのです。シクロオキシゲナーゼ1は、とくに胃粘膜や腎臓にたくさんあって、胃粘膜の保護や、腎臓の機能を調整する大切な作用を担っていることも明らかになったのです。
シクロオキシゲナーゼ1によって合成されるプロスタグランジンは、ふだんは、胃粘膜の表面を覆う粘液中に非常に多く存在しています。これには、胃液にふくまれる塩酸や消化液から胃粘膜を守る重要な作用があり、胃の局所ホルモンと呼ばれています。いわばシクロオキシゲナーゼ1は、善玉的な役割がある酵素といえます。シクロオキシゲナーゼ2のほうは、炎症や痛み、発熱などのからだの緊急時に、プロスタグランジンの生合成を過剰に促す働きがあります。シクロオキシゲナーゼ2は悪玉的な働きをすることになります。シクロオキシゲナーゼは「1」と「2」で、役割がまるで正反対であることがわかりました。

「善玉」のシクロオキシゲナーゼ1は胃粘膜や腎臓の組織にたくさん分布しているので、これをやっつけてしまうと、当然のように胃腸障害や腎臓障害などの副作用を引き起こしかねません。それでは、この「1」は攻撃しないで、悪玉たる「2」だけをピンポイント攻撃できないか。
痛みが発生しているところだけを、つまり炎症が起きている組織で活性化するシクロオキシゲナーゼ2だけをターゲットにすれば、痛みを抑えることが可能だとする、まことに望ましい実験結果が基礎研究で得られたのです。最初のコックス2阻害薬は、アメリカの製薬会社ファイザーで製品化されます。

夢の抗炎症剤という触れ込みで、通称「スーパーアスピリン」と呼ばれ、アスピリンに代わって、あっという間に消炎鎮痛剤の売り上げで世界一を記録することになりました。

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