2013年2月25日月曜日

松下幸之助は泣いている(10)

 「見せ筋」「売れ筋」「呼び筋」という商品レンジのうち、ディスカウントストアとの関係が深いのは、「売れ筋」「呼び筋」の二つの商品ゾーンです。「売れ筋」は、大量販売して利益を確保する普及品、「呼び筋」はディスカウントストアの集客につながるような低価格の目玉商品です。これまで日本の家電メーカーは、このどちらでもない「見せ筋」の高級品にばかり重点を置いてきましたが、「売れ筋」と「呼び筋」の商品開発にも力を入れるべきだったと思います。

いちいち商品特性を説明しなくても、お客さんが「これは自分が欲しい商品だ」とすぐわかるような単純なセールスポイントを持たせなくてはいけません。

もう一つ大事なのは価格です。通常の商品は、新製品の時がいちばん高い値段で売れ、次のモデルが出る頃になると徐々に値段が下がってきます。値段を下げても売れなくなると、ディスカウントストアではセール対象品となり、いわば叩き売りになります。こうした商品としてのライフサイクルを最初から最後まで計算して、その中で利益を確保できるような価格設定をしていかなくてはなりません。

10月から12月はショッピングシーズンで、家電をはじめあらゆる商品が、この3か月で半年分を売ると言われるほどですが、その中でも「クリスマスセール」は日本の歳末商戦の数倍の規模で盛り上がります。その開幕を告げるのが、感謝祭(サンクスギビングデー=11月第4木曜日)の翌日の金曜から始まる週末で、特に初日の金曜は小売店が儲かって黒字になることから「ブラック・フライデー」と呼ばれます。


世界の潮目は大量生産・大量販売へと流れているわけですから、大量販売が可能なこのチャンネルを無視することができません。いかにディスカウントストアで売れる商品を開発し、共存共栄していく施策を考えるかが、世界の家電メーカーにとってますます重要になると思います。

一方ディスカウントストアとは対照的に、値引きをほとんどしない「直営店」(ダイレクトストア)で売上を伸ばしている企業もあります。その代表がアップルです。今、このアップルストアは全米の家電売上で、ベストバイに続く第二位となっています。実はこれが「第二の流通の潮目の変化」とでも言えるものなのです。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、世界中にある300店舗以上のアップルストアを訪れるお客さんの数は四半期で6000万人を超えるといいます。これはアメリカのウォルト・ディズニーの四大テーマパークの入場者数よりも多い数字です。その床面積当たりの年間売上高は一平方メートル当たり47408ドルにも達し、ティファニーやコーチといった高級ブランドショップ以上の売上効率を誇っています。さらに家電最大手ベストバイの店舗と比べると約5倍です。

ディスカウントストアには技術的な質問や相談に対応できる販売員がおらず、きめ細かい対応を求める人々がアップルストアで買い物をしています。

これらは家電というよりはむしろIT機器なので、アプリのことやアクセサリーのことなど、つかいこなしたいと思うほどにさまざまな技術的な質問や相談が増えてきます。アップルストアはそういったお客さんに真正面から向き合うことで売上を伸ばしているのです。

本体だけでなくアクセサリーも数百種類がそろいますし、さらにそれらはすべてアップル公認の商品です。それだけに信頼性もあり、価格は多少高くても、アップルストアで買ったこと自体がファッションにもなるわけです。こうした店舗のスタイルはアメリカでは「エレクトロ二クス・ブティック」と呼ばれています。

 

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